みうらじゅんの映画批評大全

映画って懐が深いものですね。
悲恋で梅田あたりのＯＬを涙にくれさせるかと思えば、中高年をノスタルジーの世界に引きずり込んだり、さらには子供達にファンタジーという名の現実逃避を与えてくれたりして、いろんな客層に対しても、映画っていうのはニーズを満たしてくれるのです。

そして、忘れてはならないのは、映画は妄想にのたうちまわる男子を慰撫してくれるということ。
この本は、そんな男汁（©森見登美彦）溢れる男子向けの映画の本です。まさに秘宝的と言おうか・・・。

みうらじゅんの映画への愛が溢れ、妄想にむせ返ってます。内容についても、マニアな世界なので、普通の映画ファンは近づかないほうがいいでしょう。それでも手にとってしまった人は、家族に見つからないようにひっそりと読みましょう。ましてや彼女のいる人は、絶対に相手には秘匿ですよ。

でもね、楽しい本です。

「オレはいつだって映画を見る時は、主人公に感情移入どころじゃなく、すっかり自分をなくして成りきっているわけだ。（中略）そんなオレに"好き""嫌い"なんて、ちっぽけな選択があるはずがない」

とおっしゃる御大は、「映画館とは自分なくしの道場」とまで言い切ってしまう。

映画を観に行って、この映画好きだとか嫌いだとか言っている自分は、ちいせえ人物でした。楽しんでこそ映画、没頭してこその映画、一歩も二歩も引いてスクリーンを眺めるなんて、映画を観る意味ないんです。思い知らされました。
いかに、そこがいいんじゃない！という部分を見つけることができるか・・・まだまだ自分は修行が足りてません。

帯に、日本映画批評家大賞受賞の文字。おおっ、そんな大層な賞を受賞したのかと思っていたら、映画界の風雲児のあの方が設立した賞でしたか・・・。