奥さまは魔女(字幕版) << 2005レビュー >> サマータイムマシン・ブルース
ヨーロッパ旅行のお金を得るために、いとも簡単に体を売る行為をする高校生のチェヨン、そしてチョヨンの親友で彼女にお金の管理を頼まれているヨジン。
この幼さとあどけなさの残る二人の行動は、見るからに危ういのだが、彼女たちの行為は重大な結果につながっていく。
韓国でもこういうことがあるんですね。センセーショナルな題材ではあるけれど、女の子二人の繊細な友情、親しい人を失った喪失感、娘の行為を知ってしまった父親の葛藤をとても痛切に描いています。
韓国映画の中で異彩を放つキム・キドクのこの作品のひとつのテーマは、家族でしょうか。
チェヨンとヨジンの二人からして、擬似家族のような関係みたいだし。チェヨンと客とが体を通じることはまだしも、気持ちを通じさせることがヨジンには許せないのだ。
二人だけの秘密の行為を語るチェヨンとヨジンの隣にあったブロンズの家族像。この像の心配したようなあきれたような悲しんでいるようなそれぞれの表情が印象的です。
（観てから読んで→）
ホテルの窓から落ちて、ヨジンの目の前で死んでしまったチェヨンのために、彼女と関係を持った男たちに会って、チェヨンと同様の行為をして、なおかつお金を返していくヨジン。そうすることによって、チェヨンに対して償いをしようとしているんですね。
しかし、ヨジンのその行為を彼女の父親が知ってしまう・・・。
父親の信じられないという思いは、彼女を買った男たちへの怒りへと向かっていく。
この父親の怒りの向かう先が、自分の娘ではなくて、男たちへ向かっていくことに対して、もっと娘に対峙しろという気持ちにもなるかもしれませんが。
それにしても、彼女たちも簡単に体を売るけど、男たちも簡単に少女たちとの関係を持ってしまう。少女の家族の存在を想像できれば、彼女たちを買うという行為をすることは容易にはできないはず。ましてや、彼女たちと同じような年頃の娘をもつ男たちにとってはなおさらでしょう。
ヨジンの父親になじられ、自ら死を選んだ男も悲惨だけど、残された家族もまた悲惨です。
でも、一方では、彼女たちを買った男たちは深い幸せを感じていたりするところもあり、チェヨンは男たちを救う娼婦・バスミルダに自分をなぞらえてもいたし。
彼女たちは客の男たちとの関係性においては、お互いに幸せを感じていたけれど、彼女の近親者の悲しみには気付かなかったんですね。
しかし自分の行為に起因した父親の狂気を知ってしまう。ヨジンが抱く、父が自分を殺すというイメージは鮮烈です。
最後のシーンの、父親が河原で石を並べて、ヨジンに車の練習をさせるというところが心に残ります。親友も父親もいなくなり、それでも生きて行けということなんでしょうが、あまりにも、大きな代償です。
（←ここまで）
とても繊細な作品で、観てから時が経つほどに、彼女たちの無邪気さと寄る辺なさ、彼女たちを買ってしまうという過ちを犯した男の愚かさ、そして父親の悲しさが胸に迫ってきます。
河原の黄色く塗られた石の並びの俯瞰のシーンが忘れられません。
シネマ・クレール丸の内にて
−２００４韓／９５分−
シアターＦ．通信